ゴルフメッキ工房 ブログ
アルファメックによるゴルフメッキ工房ブログです。
ゴルフメッキ工房では、オリジナルゴルフヘッドの製作を主な業務として営業しています。
カスタムヘッド製作やゴルフのことなどを現場から発信していきます。
銅下メッキの必要性について
「クロムサテン仕上げでお願いします。あ、あと銅下メッキ追加で!」
凄く玄人感が出てくるオーダーの仕方。銅下メッキとは何だろうから来る、見えないところにこだわりを感じる特別なメッキについて、多くの方が持つ疑問とその必要性についてご説明したいと思います。
アイアンのメッキ
主にアイアンのメッキで、ダブルニッケルメッキの下に施す銅メッキのことを指します。
一般的なゴルフヘッドのメッキは、軟鉄鍛造であればクロムメッキが最上層にあり、その下に耐食性を向上させ、美観を上げる為にダブルニッケルメッキが施されています。その下へさらに銅メッキを処理するということの意図は何なのかとメッキについて知識のない方からすると疑問が浮かぶと思います。
そもそも、クロムメッキというものから説明しなければならないのですが、昭和の時代は自動車のバンパーも食パンのトースターもパイプ椅子も何もかもピカピカのクロムメッキが施されていました。欧米から入ってくる電化製品は皆クロムメッキが施されていて、ピカピカに光ったそれらは富の象徴とさえ呼ばれていました。クロムメッキ自体は酸化変色しない非常に優秀な金属皮膜ではあるものの、クラックと呼ばれるひび割れが無数に発生し、その割れ目から母材の軟鉄鍛造を一気に錆びさせてしまうため、下地には錆から守るメッキ被膜が必要で、銅ーニッケルークロムの三層にメッキをして完成させていたのが一般的なクロムメッキの仕様でした。
では、何故今ダブルニッケルメッキに変わったかを次にお話しします。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、車のバンパーにしろ、パイプ椅子にしろ、時が経つと”点錆び”というプツプツと出てくる赤錆が徐々に広がって、全体を侵食していくものところを見かけたことがあると思います。
自動車部品に関して言えば、タイヤのナットが錆びてしまってはかっこ悪いというより、安全性に問題があるのではと思ってしまいますし、その感覚は間違っていません。銅ーニッケルークロムメッキよりも耐食性がある仕様をと考えられた時に、ダブルニッケルメッキへと仕様が変わっていきました。
ダブルニッケルメッキとは、簡単に言えば二種類のニッケルメッキを積層させることで錆びるまでの時間を稼ぎ母材から赤錆が出る前に耐用年数が過ぎるほど耐食性が高いメッキになります。詳しくは別記事をご覧ください。
ダブルニッケルメッキになったことで、確実に製品寿命は延びました。ゴルフヘッドに関しては日本での製造開始時点でダンロップ社と野村鍍金工業(アルファメック旧社名)が5~10年間の使用に耐えうるメッキを模索した結果見つけた答えもこれでした。
ニッケル地金の方が銅地金よりも高級品であることもあり、銅ーニッケルークロムメッキは廉価品という認識も我々メッキ業界ではありました。そんなこともあり、銅メッキとダブルニッケルメッキは棲み分けが為されて、ゴルフ業界からは一旦いなくなります。
銅メッキの復権
では、銅下メッキが求められる理由は何だという話になると思います。
アメリカからのオーダーで、海岸沿いのコースでクラブを使うとどうも直ぐに錆びてしまうというクレームがありました。そこで、何とか解決できないかと言う話になって、銅は塩害に強いことから銅下メッキをしてみてはと提案し採用されました。
銅ーダブルニッケルークロムメッキ仕様がここで復活しました。
とあるプロから、銅下メッキがある方が打感が柔らかいというコメントがあり、繊細なタッチを求めるアプローチショットなどでの打感の重要性を求めるゴルファーの心へ遡求したのか、銅下メッキがメッキ仕様のラインナップに再度加わるようになります。
銅は軟鉄の半分の表面硬度であり、理論上は柔らかいメッキ被膜がサンドウィッチされたクラブは打感が柔らかくなるということへの信奉者が増えて行ったのか、はたまた昔からある銅ーニッケルークロムメッキの自動機で銅メッキも付けることで単価を稼ぎたいメッキ屋の都合と言うのもあったかもしれません。
銅下の有無は認識できない
私がこの業界に入り立ての2014年ごろ、銅下めっきの有り無しが如何に優位なものかを立証するため、同じウェッジに銅下メッキのあるものと無いものを、同じバランスで組んで試し打ちをしに行ったことがあります。
そんな繊細な感覚を持ち合わせているわけではないため、どちらがどっちだったか、目印が無ければ分からない、そんな結果に終わりました。
過去にももちろん同じ疑問を持ったゴルフ業界の方がいらっしゃったようで、プロゴルファー数名にどちらに銅下メッキが施されているか分かるかと試打してもらい、1名しかその違いを認識できなかったというお話を伺ったことがありました。その1名の方は鋭敏な感覚があり、確実にこちらだと言ったそうですが、その差が分かる人はほんの一握りということでした。
別の可能性
ただ、最近になってアルファメックのリペア・カスタムサービスに於いては一定の必要性を感じるようになりました。
ゴルフクラブのリペアでは、メッキ被膜の剥離とヘッドについた小傷をバフ研磨で除去する工程がありますが、傷を積極的に取りに行くとその深さまで周りの部分を削らなければならないため、ヘッド重量が数グラム減ってしまうこともしばしばあります。
ヘッドの抜き差しを行う時に、重量の変化は出来るだけ少ない方が良いため、銅下メッキを行うことはバランスの変化を抑えることに一役買うわけです。そのため、リペア時の重量変化を緩和するためにお客様にお勧めする場合があります。
銅下めっきまとめ
- 銅ーニッケルークロムメッキから高耐食のダブルニッケルークロムメッキが主流になり銅下メッキは一旦姿を消す
- 銅が塩害に強いことから銅ーダブルニッケルークロムメッキ仕様が生まれると、銅下の柔らかさを評価するプロが現れ定着する
- アルファメックがリペア時の研磨で落ちる重量を補うために銅下メッキを重量バランサーの役割としてお勧めするようになる
少し長くなりましたが、銅下メッキについて理解していただけたでしょうか。最後までご覧いただきありがとうございました。