ゴルフメッキ工房 ブログ

アルファメックによるゴルフメッキ工房ブログです。
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メッキによってスピン量は減らない(技術レポート)

「ゴルフクラブにメッキをすると、スピン性能が上がる、もしくは下がることが起こり得るのか?」

この様なご質問を受けることがよくあります。ゴルフクラブの表面処理に携わる以上、明確な答えを用意しておかなければならないと思い、断面写真を撮影いたしましたので本稿にて詳細なご説明をさせて頂きたいと思います。

写真1 アイアンフェース溝断面

1.溝とスピン量の関係

フェース面の溝とスピン量には大きな因果関係があるので、現在では所謂「角溝」は明確にルール適合外として規制されています。スピン量を決定する要素はフェース面だけではないので一概には言えませんが、角溝のウェッジを使用したことがある人はご存知かと思いますが、驚くほどボールにキズが入ります。このことからも規制されるべくしてされたと理解出来ます。

日本ゴルフ協会HPより引用 

2.電気メッキの特性

ここで少し話は飛びますが、電気メッキの特性についてご紹介させて頂きたいと思います。

電気メッキは、電気が流れやすい部分と流れにくい部分で密着する金属量が変化します。そのため、長方形の板を吊るしてメッキした時、大袈裟に言えば犬の骨の様な形になります。

一方で無電解メッキと呼ばれる電気では無く還元剤を用いて金属を密着させるメッキでは、電気の強弱(電流密度)が生まれないので均一な皮膜を形成すると言われています。

メッキ皮膜形成のイメージ図

このことから、メッキをするとフェース面に設けられた溝の角にメッキが乗り過ぎてしまいスピン量が減ってしまうため、ノーメッキにしているという意見をお聞きすることがありました。

3.メッキ試料と断面観察写真

上記の通り、メッキがスピン量を減らす原因になっているのであれば、解決策をご提案しなければならないと考え、四種類の試料を用意し断面観察を行いました。

  1. クロムメッキ 通常品
    1層目 半光沢ニッケルメッキ約10μm
    2層目 光沢ニッケルメッキ約10μm
    3層目 クロムメッキ約5μm
  2. ブラックボロンメッキ 通常品
    1層目 半光沢ニッケルメッキ約10μm
    2層目 光沢ニッケルメッキ約10μm
    3層目 ブラックボロンメッキ約5μm
  3. ブラックボロンメッキ 特殊品①
    1層目 無電解ニッケルメッキ約10μm
    2層目 ブラックボロンメッキ約5μm
  4. ブラックボロンメッキ 特殊品②
    1層目 ブラックボロンメッキ約5μm
1.クロムメッキ 通常品
2. ブラックボロンメッキ 通常品
3. ブラックボロンメッキ 特殊品①
4. ブラックボロンメッキ 特殊品②

4.断面写真からの考察

全ての写真を見比べて明確に分かったことは、現在採用しているメッキ膜厚のスケール(規模)では、スピン量に影響を与える程の機械要素上の変化はみられません。

むしろ、耐食性と耐摩耗性の観点からクラブヘッドの寿命を考えた場合、下地のメッキをしておいた方が良い為、今後は競技用であれ積極的にフルメッキをお勧めいたします。

5.ノーメッキの方がスピンがかかるというのは幻想か?

スピン量について比較テストを行ったことはありませんが、他サイトの実証結果などによると、ノーメッキとメッキでスピン量に変化をもたらすことは無いが、フェース面が錆びることで表面に凹凸が生まれ、それがスピン量を増やす要因となることはあるそうです。

錆については、その凹凸が飛打球方向へ影響を与えかねないことや、金属の摩耗を促進させ重量バランスが崩れることなどを考慮すると、全くお勧めできません。

6.耐食性の評価

この実証実験では、比較要素として耐食性を確かめるために「塩水噴霧試験」を行いました。本当の意味で防錆能力を確認するためには、自然放置で錆の発生を観察するのですが、悠久の間(数年)が必要となりますので、塩水をかけ続ける加速度試験を行います。

下記写真をご覧ください。耐食性では、1≒2≒3>4という結果になりました。言わずもがな、ブラックボロンだけの処理ではノーメッキと変わらないレベルで赤錆が発生しています。1と2は、下地にニッケルメッキを処理しているため耐食性に優れております。一方で、そのニッケルメッキの半分ほどの膜厚しかつけていなかった3も同等の耐食性を有していることがわかります。これは、下地に密着している無電解ニッケルメッキがニッケルとりんの合金で、耐食性に優れる皮膜を形成しているためです。

7.ブラックボロンメッキの評価

実際に私が練習場とゴルフ場に出向き、上記試料の3と4のブラックボロンメッキ特殊品について試打をしてきました。

練習場で300球ずつ打ったところ、ボールの塗装がフェースに引っ付いてしまったものの、超音波洗浄をかけると特に試打前と変化がみられることはありませんでした。

次に、前々から憂慮していた点としてバンカーショットでブラックボロンメッキの黒化皮膜が剥がれてしまう問題があり、実際にバンカーショットを2発ずつ打っただけで写真の通り下地のメッキが見えてしまいました。

これは紛れもない事実ですが、この黒化皮膜がめくれた部分を蛍光X線分析装置で計測した所、ニッケル層がメッキ狙い値と同じだけ残っていたため、バンカーショットによってメッキまで剥がれてしまうということはないと言えます。

この試打では、下地が無電解ニッケルメッキ10μmでも通常品と同等の耐久性と防錆性能が確認出来たので、重量を軽く、打感をなるべくダイレクトに伝えたい方へは有効な仕様であるということも分かりました。

8.まとめ

フェースの溝に対して厳格な規制が入った現在、メッキの有無でスピン量に差が出ることはないと言えます。錆やキズへの耐久性の観点から、軟鉄鍛造アイアン・ウェッジ・パターへのメッキは必ずしておくべきとお伝えしたいと思います。