ゴルフメッキ工房 ブログ

アルファメックによるゴルフメッキ工房ブログです。
ゴルフメッキ工房では、オリジナルゴルフヘッドの製作を主な業務として営業しています。
カスタムヘッド製作やゴルフのことなどを現場から発信していきます。

ScottyCameronStudioStyle2025のインサートから読み解く軟鉄鍛造パター復権の兆し

引用元:FairwaygolfUSA https://00m.in/TfAfd

先日発売されたスコッティキャメロン2025年モデルのスタジオスタイル。インサートには、SCSの刻印が入っておりますが、一体なんのことかご説明しましょう。

カーボンスチール!?

引用元:スコッティキャメロンHP https://www.scottycameron.com/studio-style/

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CARBON STEEL FACE INSERT(カーボンスチール・フェースインサート)
新開発のスタジオ・カーボンスチール(SCS)フェースインサート。広範な音響、フィーリング、プレーヤーテストを経て、数多くの金属素材の中から厳選されました。チェーンリンク状のフェースミリング技術を採用したSCSフェースインサートは、明らかに柔らかな打感と打音を実現します。


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カーボンスチールと言われると、テイラーメイドのドライバー、SIMシリーズのようなカーボンシートのことかと思いがちですが、要するに日本語にすると炭素鋼で、まさに日本人が得意とする軟鉄鍛造アイアンの材料である軟鉄が低炭素鋼で何十年も前から打感が良いと言われ続けてきた物のことを指すのです。

早速インサート実物を分析しました

メッキするには本体から取り外します。そして重量計測すると28.3gと出ました。

そして、メッキを蛍光X線分析装置にかけて検量線を測定すると、ニッケルの含有が見られたので表面はニッケルメッキです。公式サイトにも錆の発生を抑えるためにニッケルメッキしていると書かれていました。

さらに詳しく書かれたレポートを発見したので読んでみました。

引用元:https://www.titleist.co.jp/teamtitleist/b/tourblog/posts/titleist-introduces-new-vokey-design-limited-edition-oil-can-finish

翻訳してみると・・・

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この2025年版のスタジオスタイルシリーズは、ブランドオリジナルのGSSインサートを採用したスタジオスタイルラインの20周年を記念して作られました。ライン全体に、チェーンリンク状のフェースミリング技術を用いた、より柔らかな打感を持つスタジオ・カーボンスチール(SCS)フェースインサートを搭載しています。

幅広い素材を用いた綿密な音響・フィーリング・プレーヤーテストの結果から選ばれたカーボンスチールは、スコッティ・キャメロンの愛好家や、ジョーダン・スピースをはじめとするツアープロにも長年高く評価されてきました。独特の柔らかい打感と心地よい打音を特徴としています。

今回、新たに無電解ニッケルメッキ加工を採用。これにより耐久性が向上し、従来のカーボンスチールパターで問題となっていた錆の発生を防止します。また、このメッキ加工は素材本来の柔らかい打感を維持しつつ、現代ゴルファーのパフォーマンスニーズに応える高耐久性を実現しています。

全てのパターヘッドは米国内で精密に削り出され、インサートをヘッド本体に融合させる前にソフトミル加工が施されています。さらに、インサートはスクリューと航空宇宙技術にヒントを得た振動吸収技術によって固定されています。インサートの外周部には二次的な振動吸収材が組み込まれており、これによって完璧なまでにソリッドなフィーリングをもたらします。
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・GSSインサートではなく、SCSインサート
・メッキは無電解ニッケルメッキ
・インサートと本体のジョイントに特殊な樹脂を採用して振動を吸収している

ここから読み取れることを、技術者として書かせて頂きます。

GSSはもういいのか

GSSはジャーマン・ステンレス・スチールの略称で、タイガー・ウッズ氏が使用して粘り気がある打感を気に入っていたということで誰もが使ってみたいという憧れの素材で、パターを削り出しで作るためのブロックを買うと10万円もすると言われることもあるとかないとかの高級品。成分分析をするとSUS304という硫黄成分と炭素成分が一般的に流通するSUS303よりも低いステンレス鋼と同じだと言われています。GSSという刻印が入っているか入っていないかでパターの値段が何倍も違い、コピー品が出るなどゴルフ用品に詳しい人なら誰もがなんとなくは知っているのがこのGSSです。

GSSの流行から何年も経ち、世の中はすっかりパターはステンレス製一色に染まってしまったわけですが、元来軟鉄鍛造アイアンこそが打感に優れた材料であったことから、原点回帰でのSCSではという思いに至るわけです。

今回フェイスインサートには、チェーンミーリングが施されていますが、加工性の良さから炭素鋼が選ばれた理由も見え隠れします。

メッキは無電解ニッケルメッキ

ここで我々が気になるワードが出てきたのですが、皆さんあまりなじみのない無電解ニッケルメッキ。”無”とありますが、電気を使わない化学メッキと呼ばれるメッキです。当社のラインナップで言えば、ボロンとブラックボロンがこちらに該当します。

電解ニッケルメッキの方がコストが安いのですが、無電解にすることで電解ニッケルメッキよりも耐食性に優れる点と、治具選定が容易であることから選定されていると考えられます。

打感の柔らかさを謳っている理由は、恐らくステンレス鋼との違いで軟鉄にニッケルメッキの方が柔らかくなるためだと推察されます。

特殊な樹脂

これの正体は門外漢なので分かりませんが、本体とインサートを繋ぐ部分は樹脂でコーキングされています。ここが硬すぎると振動はもろに手に伝わりますし、柔らかすぎると手ごたえが無くなります。

オデッセイを始めとする樹脂インサートが世の中に大量に出回っていますが、プロやトップアマの方はそういった中でも硬めの樹脂を選択することが多いと聞きますので、特殊なというところでは何パターンかの試行錯誤の中で選定された可能性も見えてきます。

打感は音から伝わる部分が大きいので、炭素鋼の音を殺さない硬度の樹脂が選定されている可能性もあります。

まとめ

スコッティキャメロンというパター界の雄が、インサートとして炭素鋼へ無電解ニッケルメッキを施した材料をチョイスしてきたということで、ステンレス鋼一色だったパター業界に、軟鉄復権の兆しを見せたと今回我々スタッフは期待を込めて今後の展開に胸を膨らませています。