ゴルフメッキ工房 ブログ

アルファメックによるゴルフメッキ工房ブログです。
ゴルフメッキ工房では、オリジナルゴルフヘッドの製作を主な業務として営業しています。
カスタムヘッド製作やゴルフのことなどを現場から発信していきます。

ゴルフクラブヘッドへのめっき基礎

1.ゴルフクラブヘッドとめっきの関係

ゴルフクラブを構成する部品の内、ゴルフクラブヘッドはボールをヒットする部分であり高い耐久性が求められます。本編では、軟鉄鍛造アイアンヘッドへのめっきをベースとした解説を行いたいと思います。

2.ゴルフクラブヘッドにめっきが用いられる理由

めっきの役割は大きく分けて3つあります。防錆、硬度、外観を向上させることです。

まず1つ目の防錆について述べます。めっきすることで屋外での水濡れが発生する環境でも錆びないようにします。通常、ノーメッキの場合軟鉄鍛造アイアンは屋内でも放置しているだけで赤錆が発生します。そうなると、製造後に店頭でお客様が手に取るまでの間に錆びてしまうため、商業的にも問題が大きくなります。

次に2つ目の硬度について述べます。ゴルフクラブヘッドは、ボールを打つ際に非常に大きな負荷がかかります。最上層のクロムめっきは、ビッカース硬度でHv900以上である一方、鉄はHv110程度です。この差を見て分かる通り、耐久性は飛躍的に向上し、バンカーショットなど負荷がかかる場面でもアイアンの形状変化を抑止することが出来ます。

最後に3つ目の外観について述べます。ゴルフクラブの外観が意味するものは、品質の高さからくる「顔の信頼性」です。ゴルファーはしばしばゴルフヘッドを見る際に「顔がいい」と言いますが、この顔を決定づけるのもめっきの重要な役割です。一般的なクロムめっきだけでなく、無電解ニッケル・ボロンめっき、黒色無電解ニッケルめっき、コバルト合金めっき、三価クロムめっき、銅めっきなど多種多様なめっきと、サンドブラスト処理、研磨処理によって外観の変化を演出することも可能です。

これら3つの要素が機能美を造り上げ、そこにめっきが切っても切れない存在であることをご理解いただけたと思います。

3.ニッケルクロムめっき

ゴルフクラブヘッドの一般的なめっきは、ニッケルクロムめっきです。ニッケルとクロムを積層させる技術ですが、この場合三層のめっきで構成されています。

階層めっき名膜厚重量(狙い値)特徴
一層目半光沢ニッケルメッキトゥ側:7.5~12.5µm
ヒール側:3.5~7.5µm
1.8±0.3g光沢はやや劣るが耐食性に優れる
二層目光沢ニッケルめっきトゥ側:7.5~12.5µm
ヒール側:3.5~7.5µm
1.8±0.3g光沢に優れるが耐食性に劣る
三層目クロムめっきトゥ側:3~7µm
ヒール側:1~3µm
0.5±0.2g強固な酸化被膜により耐食性に優れるが欠陥があり部分腐食を起こす

半光沢ニッケルめっきと、光沢ニッケルめっきが二層になっていることから、ダブルニッケルめっきと呼ばれています。

半光沢ニッケルめっきも光沢ニッケルめっきも浴組成はほとんど同じで、光沢剤の成分に特徴があります。半光沢ニッケルめっきは、光沢度合いが光沢ニッケルめっきに比べて低い代わりに耐食性に優れます。この上に耐食性の高いクロムめっきが積層されますが、ピンホールやクラックなどめっきの欠陥と呼ばれる部分から侵食がスタートする酸化腐食を、耐食性の低い光沢ニッケルめっき層が選択的に先に腐食され、下層の半光沢ニッケルめっきへの浸食を遅らせることが出来るため、ダブルニッケルめっきにより耐食性を長く担保することが可能となっています。

美観としても、光沢ニッケルめっきが光沢をもつことで、最上層のクロムめっきに光沢が引き継がれます。光沢剤が登場する以前は、ニッケルめっき後に研磨を入れることが一般的でしたが、光沢剤の登場でその作業もほとんど必要となくなりました。

2章で先述した通り、クロムめっきの硬度とダブルニッケルめっきの耐食性が、ゴルフクラブヘッドの耐久性を担保し、月一ゴルファーが10年程度使い続けられるように設計されています。

4.銅下めっき

銅は表面硬度がHv80程度と軟鉄鍛造よりも柔らかく、下地にいれることで打感が柔らかくなると言われています。実際に銅下めっきを入れることで、塩害に強くなるためリンクスコースなどで使用するアイアンに施されることがります。銅めっき単層であっても一定の耐食性があることから、積層させず単層に仕上げる場合もあります。この目的は、打感の柔らかさを得る為と、銅の外観を好んでの為などがあります。また、重量を2g前後増やすことが出来るため、重量調整目的での利用もされています。

階層めっき名膜厚(狙い値)重量(狙い値)特徴
一層目銅めっき7.5~12.5μm2.0±0.3g塩害に強い

5.研磨加工

ゴルフメーカでは、大まかに下記の工程でアイアンヘッドを造り、その一部にめっき加工が弊社のようなめっき専業者に委託されることとなります。

  • 鍛造
  • バリ取り
  • ホーゼル穴明け
  • 刻印
  • ラインプレス
  • ロフト・ライ角合わせ
  • 成型研磨(形状、重量合わせ)
  • バレル研磨
  • 仕上げ研磨
  • バレル研磨(つや出し)
  • 下地研磨(ピンホールなど必要に応じて)
  • めっき加工
  • 仕上げ研磨
  • フェイスサンドブラスト
  • 色入れ
  • 組み立て

弊社では、めっき加工からフェイスサンドブラストまでを請け負っております。リペア・カスタムの場合は、下地研磨から行います。めっきは軟鉄鍛造表面の素地にある機械加工や錆の痕などをそのままの形で残してしまいます。さらに言えば光り輝くことでより強調されることもあります。

下地研磨を応用すると、サテン調に研磨目を入れるとめっき後にも残りますのでより際立った仕上がりにすることが出来ます。ミラー調であれば、素地から鏡面に磨き上げることに加え、仕上げでさらに艶出しを行い顔が映るほど光沢を出します。

めっきの良し悪しは研磨に大きく左右されるということです。

6.ショットブラスト加工

アイアンは、フェイス面を梨地調に仕上げることでスピン性能を向上させるとともに、エイミングラインを際立たせ、コントロール性を付与させるためにショットブラスト(サンドブラスト)加工を施します。サンドブラストする部分以外はマスキングテープで覆います。

艶消しに仕上げる場合は、めっき前に光沢を消すためにショットブラストを入れることもあり、光沢ニッケルめっき後にショットブラストを入れると艶消しのクロムめっき(当社名ホワイトクロムめっき)になります。

7.品質

ゴルフクラブヘッドの品質は以下の部分から判断されます。

  • 外観 ピット、膨れ、曇り、変色、めっき剥がれがないことが判断基準です。めっき剥がれは後から起こることがあり注意深く観察する必要がありますが、蚊に噛まれたような膨らみが特徴で、これはニッケルめっきの層間剝離と呼ばれ、バイポーラ現象が原因であることが多く、弊社ではこの現象が起こらないめっき方法を採用しています。 ※バイポーラ現象とは:電気めっき加工の際に、製品が電解液中で正と負の二つの極を同時に持つ現象です。正が剥離、負が密着となるためめっき被膜の剥離が部分的に発生します。
  • 重量 ゴルフクラブヘッドの重量は、1.75g増減するごとに1ポイント変わります。鍛造後研磨されたアイアンが、重量フローからめっきにより大きくズレることは、組み立て時のバランスに影響を及ぼすため弊社ではダブルニッケルめっきの重量を3.6g±0.6gで管理しています。
  • 耐食性 メーカーによっては、定期的に塩水噴霧試験を行い基準のサイクルタイムで赤錆の発生が無いかを確認します。弊社の取引先でもこの試験を採用されている企業があります。耐食性はめっき被膜の膜厚に準ずるため、適切な膜厚管理を行うことで担保することが出来ます。弊社では、蛍光X線分析装置にてトゥ側、フェイス中央部、ヒール側の三か所の膜厚を定期的に計測しています。蛍光X線分析装置とは、X線を照射し非破壊で特定の金属厚さを計測することが出来る装置です。

8.剥離再めっき

上記品質上の不具合が発生した場合、速やかに剥離再めっきを行います。剥離は、それぞれの金属に適した方法があります。

材質剥離方法説明
クロムアルカリ電解法アルカリ溶液で逆電解を掛けクロムめっき被膜を剥離する。素地をあまり傷めない。
ニッケルシアン化ナトリウム溶液浸漬法シアン化ナトリウムと補助剤からなる溶液に浸漬し剥離する。鉄がアルカリに対して溶解させられないため、生地を傷めない。銅合金の場合、溶解するため剥離対応が出来ない。環境負荷があり、適切な排水処理を行わなければならない。
シアン化ナトリウム溶液浸漬法同上
その他合金シアン化ナトリウム溶液浸漬法同上
IP(イオンプレーティング)ショットブラストもしくは、IP剥離剤浸漬法ショットブラストを照射することで物理的に剥離させる。そのため、再めっきする場合梨地調になる。剥離剤の場合は特に変質をさせない。
クロム希塩酸浸漬法クロムは塩化物により溶解させることが出来る。ただし、鉄が露出した部分も溶解させるため、ホーゼル内などをやせ細らせるリスクがあり積極的に使用していない。

9.その他めっき

最上層のクロムめっきを置き換えることで様々なカラーカスタムが実現可能です。

めっき名称説明色調
無電解ニッケル・ボロン合金めっきボロンめっき電気を用いない化学めっきの一種で、還元剤にアミンボランを利用することからニッケルとボロンの合金を製膜する。結晶構造は結晶質で析出時から硬く、クロムめっきに準ずる硬度を有している。キャビティの深いタイプなど、奥まで均一に製膜できるため自由なデザインに対応できる。ニッケルは酸化被膜が成長し続けるが、このタイプは比較的酸化速度が遅く、使用時に水拭きを繰り返すことでかえって光沢が出てくる。黄色~赤色調のシルバー
スズニッケルコバルト合金めっきコバルトブラックスズとコバルトにより黒い発色が出来る。膜厚は1μm未満で、柔らかい打感を感じることが出来る。赤色調の薄いブラック
三価クロムめっきハードブラック三価クロムの光沢が低い外観を逆手に、コバルトも用いて黒い発色をさせている。膜厚は0.3μmまでの極薄ではあるものの、下地のニッケルと調和し発色は保持される。柔らかい打感を感じることが出来る。青色調の薄いブラック
黒色無電解ニッケルめっきブラックボロン真っ黒で硬度のあるめっき被膜。光学部品に利用されるほど暗黒度が高いため、日光の反射を抑止してくれる。めっき液コストが非常に高く、めっき後に皮膜定着のため熱処理が必要。濃いブラック
銅めっき銅めっき金以外で銀色ではない貴金属は銅だけである。銅は水分や酸素と結合しやすく、変色しやすい。通常、軟鉄鍛造アイアンの上に単層で用いられる場合が多いが、ダブルニッケルめっきの上に乗せる場合もある。銅褐色
銅燻し加工銅燻し上記銅めっきを処理時点で変色させるエイジング加工。黒色、こげ茶色
なしダブルニッケル仕上げダブルニッケルめっきで加工を終える。クロムめっきが無い分打感が柔らかい。一方で耐久性は劣る。黄色調のシルバー
鉄素地ノーメッキ研磨とサンドブラスト以外何もめっきが乗っていない状態。直ぐに錆びる一方で、ある程度錆が落ち着くと進行が緩やかになる。打感はめっきがない分柔らかく、ピンデッドに狙いスピンをかけていける。グレー
四三酸化鉄処理黒染め140~150℃に熱した四三酸化鉄溶液で煮沸し、表面を2μm程度黒錆で覆う。これにより腐食がストップされるが、傷入りなどによってその部分から腐食が始まる。ノーメッキと打感は同じ。黒色
無電解ニッケル・りん/PTFE複合めっきPTFE加工無電解ニッケルめっきの被膜にPTFE粒子を共析させることで得られる表面の摩擦係数が低くなる処理。スピン量が減り、飛距離が伸びる。硬度が低いため長寿命は望めない。グレー